現地訪問で思ったこと その3(Fyさん宅にて)

Fuさん宅からは7分ほどの距離にあるFyさんのお宅、ご本人が夕方まで出掛けて不在なので、家族に品物を預けておくからとの事前の電話でした。しかし、お邪魔したのが夕方になったので、もしかするとお戻りかもと行くと案の定本人の姿が。途中で訪問時間の電話も入れず失礼なことをしたとは思いつつ、遅くなりましたと挨拶。いつもと違い、一瞬不機嫌そうな顔になったものの、すぐに元の人なつっこい顔に。作業室に招きいられ、「愛の香り」の莢を入れた段重ねのコンテナのそばで会話が始まりました。
当方「へー、莢がだいぶありますね。やっぱり一つも売らなかったんですか」
Fyさん「そうよ。この前も言ったじゃない」
当方「もったいないですね。売って大丈夫なのに」
Fyさん「売り先に予定していた業者の○○さんが被災して加工場がダメになったし、直売場で売るにもあなたが落花生だけのラベルで売ったらダメだって言うから」
当方「落花生 愛の香り で出せば問題ないし、高く売れるはずですよ。それじゃだめでしょうかね。」
Fyさん「おおまさりだって今までそうしてきたんだから、別に愛の香りだって同じでいいじゃないかと思っている。」
当方「それじゃせっかくお金だして種子を買った意味が無いんじゃないでしょうかね。出願登録品種の利用料が無駄になるような気がしますよ。食用のものを種子用に転用しても文句は言えなくなるし」
Fyさん「まあとにかく、今年は、落花生のおこわや甘煮で売るよ。それでいいでしょう」
当方「来年はどうされますか。」
Fyさん「勿論つくるよ。少なくても4、5年作らなければ自分の所での本当の特性はわからないし、安心して売ることはできないから。それにそもそも、あなたに最初に言ったでしょう。自分は変わった落花生をつくることが第一の楽しみで、それでただちに商売をしなくてもいいと思っている。この前見せた変わりものの落花生、あれと同じ考え。」
当方「そうですか」
Fyさん「ところで、電話では発芽調査用のサンプル欲しいといってたよね。これだから。必要なだけ持って行って。」
当方「いいんですか。じゃ遠慮無くいただきます。発芽に問題なければ、当方での販売用種子の予備として予定させていただきたいのですが、よろしいでしょうか。」
Fyさん「ああいいよ」
当方「その場合、買上価格はFuさんと同じ条件となりますので」
Fyさん「了解です」
会話は、これで一時中断し、サンプル莢を網袋に入れる。
当方「それにしてもこの愛の香り大きいですね。大きすぎませんか」
Fyさん「人のを見てないからわかんないけど、おおまさりよりは確かに大きいね。収量もあるし」
当方「収量は2割贈ぐらいでしたっけ」
Fyさん「もっと。あなたにも前に言ったと思うけど。3割はあるんじゃないかな」
当方「すごいですね。でも莢の中身が充実していない、特に先豆がそうなっているのが多いという話ですよね」
Fyさん「そうだね。場所によっては、大丈夫な株もあったけど」
当方「それって原因はなんですかね。」
Fyさん「中身が少ない、いわゆる空莢っていうのは、水不足で起こりやすいって試験場の職員の人も言ってたから、それかなということも考えられるけど、実際には自分は充分すぎるほど今シーズンは水を掛けた。だから水不足では無いと思うよ。石灰不足が空莢を生むと言われることもあるけど、そうならないよう気をつけているし。」
当方「それじゃ何でしょうかね。地上部はそれほど大きくはならなかったのに、莢数は多かったんですよね。それから類推すると、個人的には、地上部の生育と地下部の生育がアンバランスになったため、有り体に言えば葉っぱの同化量(光合成産物量)に比べ、莢数が多すぎるため、充分な養分が実に供給できなかったからと考えているのですが、果たしてどうでしょうか。仮説になっていますかね。他の場所でも実の充実がやや不十分という話があるので、お手伝いしてくれるAさんと相談して、来年は少し試験をやってみたいと考えているのですが、Fyさんにもご協力いただけるでしょうか。」
Fyさん「ああ、いいよ。」
当方「具体的な試験設計については、後ほど相談させていただきますから」
Fyさん「了解です」
会話は更に別方向へ。
当方「話は戻りますが、今日ある農家さんが愛の香りのことを知りたいというのでお宅へお邪魔したのですが、その時おおまさりも世に出た当時は発芽が悪く、2粒撒きしてくださいという注意書きがされたパンフレットが出たと言われたのですが、確かに見せていただいた県の栽培パンフレットにはそういう記述がありましたね。」
Fyさん「そう、自分は見たことが無いと思うけど。へー、今はそんなことは無いと思うけどね」
当方「極大粒種では草型にかかわらず、発芽の問題は起こりやすいと昔から言われてきたみたいですけど。おおまさりもそういうことがあったんですね。愛の香りだけじゃないと思うと少し気が楽になった気がします」
Fyさん「おいおい。それじゃだめだよ。試験の話はどうなるの。もっともそれに関連して、発芽だけでなく品種の特性が変わるのは、実際に自分も経験済みだよ。おおまさりも何回か種子更新したけど、特性の変異(変化)を感じたことが確かにあった。劣化への一方向的なものでは無いけど。特性の劣化を防ぐのが種子更新という意味では、更新価値はあると思うけど、そもそも何故特性は変化するのかね。落花生では自然交雑は確か1%未満と前に言ってたよね、突然変異?でもそれもあまり起こりそうな気はしないけど」
当方「そうですね。なぜでしょうかね先祖返り現象もなきにしもあらずですが。」
時間も遅くなり、夕闇が迫ってきたので、会話はこれで終了し帰途につきましたが、この特性の変化については、当方も強い関心を持っています。
というのは、年数を掛け選抜を重ねた系統でも一向に特性が固定できないものがあるからです。その原因究明と対処法を確立できなければ、世に新品種として問うことはできません。
最近話題のトランスポゾンご存じの方もいらっしゃるかと思います。いわゆる動く遺伝子のことですね。これは生物界に広く存在し、人間で45%、イネで15%のDNAが過去には活性のあるトランスポゾンだったという衝撃的な事実があるそうです。今はそれらは非活性型に変化しているものが大部分ですが、今もある活性型のトランスポゾンは植物では斑入りや花の奇形・多色化等を起こし特性変化の原因の一つとされていますが、落花生でもどの程度実在し、特性変化(非固定化)をもたらしているのか、また非固定化の原因がトランスポゾンだとしたら、その非活性化が技術的に可能なのか、研究機関の協力を得てできれば検討したいと考えているところです。

今回はFyさんとの会話から「愛の香り」の一現状を率直に述べてみました。Fuさんのように問題なく本年も生産出荷できた方も多い反面、Fyさんのように問題の出た所もあります。来年以降に問題点に関しての試験を行い、早急に問題点の解消に努めたいというのが当園のスタンスであります。ご理解のほどをお願いします。
Fyさんは普段はとてもきさくでおしゃべりのうまい人です。また、TVを始めマスコミへの登場も多く、発信力のある人でもあります。落花生については、長年の経験を経て辛口コメントが多いようですが、それは裏返すとそれだけ落花生に対する期待も大きいということかもしれません。率直な意見を披露していただく頼りになる存在として、当園も末永くお付き合いの程をお願いしたいと考えています。

2019年11月19日